STORY

産業ロボットメーカーのベンチャーで働くあきらは、2年目にして新規事業のプロジェクトメンバーの担当になった。大学卒業後、金融大手の投資部門に勤めていたあきらがBRICKS技研に出会い、ロボット産業が日本の未来を担うことを確信し、転職したのは2年前のことだ。異業種への転職、ましてや安泰な金融マンから中小企業への転職は周りの反対も強く、官僚の父親には二度と敷居を跨ぐなと言われたほどだった。それでもあきらが転職したのは、大きな組織の歯車として、与えられた職務をこなす毎日に違和感を感じ、もっと血の通った仕事をしたいと願ったからだ。

中小企業ながらも産業ロボット界の風雲児として、画期的な製品を次々と生み出すBRICKS技研。社員は家族のように仲が良く、故に、激しくぶつかったり、拗ねてしまったりと、少々めんどくさい面もある。しかしそれは、確かな人と人との結びつきの中で、心が動くのを感じながら働くかのようで、心地よかった。1年目のあきらは、ベンチャー企業特有の、裁量の大きさ、物事の進め方に馴染めず、周りから見てもどこか空回りしていた。そんなときは決まって社長の優一が声をかけてくれた。優一は産業機器メーカーの2代目だが、以前は外資系コンサルティング会社で働いており、リーマンショックの煽りを受けて瀕死の状態になった会社を、父親の急死で受け継いだのが12年ほど前のことになる。その後、破竹の勢いで産業ロボットメーカーとして生まれ変わらせたのは紛れもなく優一の手腕であった。

新規事業プロジェクトメンバーにあきらを起用したのは、優一の肝いりだった。”挑戦か死か” “大手にできるような、ありきたりなことはしない” が口癖の優一は、どことなく自分と同じ匂いをあきらから感じ取ったのかもしれない。一方、優一の突拍子のないアイディアに日頃から振り回されているメンバーにとって、あきらのメンバー入りは違和感を覚えるものではなかったが、「新規プロジェクトの事業化は難しい」というテンションで淡々と仕事をこなそうとしていた。異業種から参入したあきらは、所詮世間知らずで、すぐ諦めるだろうとたかを括っていたのだ。

しかし、「産業ロボットメーカーがコンシューマー向けのパワードスーツを作る。」という新規事業のアイディアの先進性や、あきらが技術者や外注先に何度も断られながらも、あきらめない姿勢に周りの目も徐々に変化していき、メンバーも手助けする気持ちや目線を送りはじめる。そんなある日コスト面でも技術面でも行き詰まりを感じ「もう無理かも…」とため息とともに、頭を抱えそうになったとき、あきらにメンバーからメッセージが届く。。

その言葉は、大工として一家を支えた祖父の記憶を呼び起こした。幼少期のあきらは引っ込み思案な性格で、他の子どもと遊ぶより、図鑑を読んだり、ブロックで遊ぶのが好きだった。祖父の昭雄は、少年あきらが遊びに来ると、嬉しそうに大工道具の使い方を教えるのだった。子ども相手だというのに真剣な眼差しで教える昭雄に、父の義彦は「親父、その辺にしといてくれよ。俺の息子を大工にするつもりか?大体、工房なんて子どもには危ないだろ。」と小言をいうのがお決まりだった。しかし、木の良い香りと、様々な道具が並ぶ祖父の工房は、少年あきらの目には輝いて見えて、子どもながらに”何かをつくり出す” 面白さを味わっていた。

週末になると、実家から電車で20分ほどの下町にある祖父の工房に行くことが多くなったあきらは、中学生になる頃には一人で椅子を作れるほどになっていた。より美しく、心地よいモノをと挑戦するが、毎度大きな障壁が待ち受けていた。失敗して嘆息するあきらに祖父は、「難しいだろ。理想のモノを作るっていうのは。でも、だから面白い。もうダメなんじゃないかと思っても、諦めなければ、必ず方法があるもんなんだ。どれどれ、見てやるか。」と言い手伝ってくれた。こうして実家にあきら作の家具が増えていった。父の義彦はそれを憮然とした表情で眺めるのが常だったが、それは自分が家業を継がなかった後ろめたさと、息子の将来を慮ってのことで、あきらの見ていないところではその器用さと成長を喜んでいたという。とはいえ、BRICKS技研への転職を機に義彦との関係には亀裂が入ったままだ。

そんな思い出が頭をかけめぐった刹那、あきらはこの事業を志すきっかけを思い出した。それは他でもない、昭雄のためだったことを。あきらが大学を卒業して就職した頃からか、昭雄も寄る年波には勝てず、現場仕事は弟子達に任せることが多くなっていた。最近は「まだまだ気力はあるんだが、身体がついてこなくってな。そろそろ潮時かな。」と弱音をこぼすようになり、「じいちゃんも歳だからな。」と言うとすぐさま「年寄り扱いするな。まだまだやれるわ。」と言って大きな木材を運んで見せようとするが、節々の痛みに顔を歪め、息を上げる様に、あきらが手を貸さざるを得なくなるのだった。その時、あきらの脳裏に浮かんだのは「もし、ロボットが人の作業を手伝えたなら、どうだろう?祖父のような人の助けになるかもしれない。」というアイデアだった。この新規事業はあきらにとって、モノづくりの楽しさと、家族でただ一人、今の会社への転職を応援してくれた昭雄への恩返しと言っても過言ではない。あきらは心の中で「まだ、諦めるわけにはいかない。祖父のため、このイノベーションを待ってる人のため。」と言い、目を見開いた。それは新規事業を成功させるに一番重要な「熱量」が発案者に戻った瞬間だった。

数年後・・・

あきらのプロジェクトは、軌道に乗っていた。この数年は息つく暇も無く、まるで一瞬で過ぎたような濃密な時間だった。度重なる不具合により、製品化は断念せざるをえない状況もあったが、腕利きのエンジニアが不可能を可能にしてくれた。量産化にあたっては外注先がライバル会社に買収されたり、特許の訴訟に巻き込まれたりと、一筋縄では行かない状況に悩まされたりもした。しかし、戦友とも呼ぶべき仲間のおかげで一つ一つ乗り越え、事業化に成功した。マーケティング面ではパワードスーツをサブスクリプションで利用可能にしたこともありあきらのプロジェクトはメディアから注目されるほどになった。ラテン語で「仲間」を意味する「SOCIUS」と名付けられた新規事業は、製品のデザインが洗練されただけでなく、一貫した世界観を表現するため新しいSHOWROOM兼オフィスをあてがわれ、以前のBRICKS技研とは様変わりしている。

今、あきらは個性豊かな仲間や顧問とともに、新オフィスの会議室で後輩のプレゼンを聞いている。-数年前とは違う、厳しい局面を乗り越えてきた男の落ち着きと、目の輝きが印象的だ。-事業をさらに加速させるアイディアが含まれていた。同時に乗り越えなくてはならない関門も思い浮かぶ。しかし、あきらの頭には、あの日仲間にもらった言葉が浮かんでいた。

「面白いのは、これからだ。」

to be continued…

この物語はフィクションであり、実在の人物及び団体とは一切関係ありません。